■プロダクション・ノートより
フランス・バニング・コック
市警団の隊長。
パーマーランドとイルペンダムの領主で、香料や薬を地中海地域や北アフリカ、中東から輸入し、北欧の料理店や薬屋に売っていた裕福な商人の息子で、社会的地位は高かった。しかしそれは武勇や戦果、代々続く家名によるものではなく、非貴族主義共和国となった新しいオランダで有利な婚姻を続けた結果によるもの。「夜警」が完成すると間もなくアムステルダム市長に選出されている。レンブラントによる中傷も、アムステルダムを牛耳る支配家系としての彼の地位を脅かすことはなかった。
「夜警」に描かれたバニング・コックは、手袋をした右手に他の誰かの手袋を持っている。バニング・コックは、町で最も裕福な義理の兄弟のために、右手の手袋を拾うようなことを強要されたと暗示しているのではないか。
ロンバウト・ケンプ
市警団の軍曹。
代々衣料品商売を続けている家系で、英国中部との関係を持つ。家族の資産によって地位を与えられたが、同時に責任も負わされ、オランダ改革派教会の助祭とアムステルダムの児童及び貧困者救済院長に任命された。しかし彼は、養護施設が児童労働及び児童買春に利用される環境を作ったとして告発されている。彼は在院児で異母姉妹と見られるマリタとマリッケを養子として引き取った。この2人が「夜警」の女性モデルであると考えられている。レンブラントが彼女たちを作品に盛り込んだのは、登場人物たちのモラルの低さに関する告発の一環である。
レンブラントはケンプにバニング・コックと同様の黒い衣装を着せているが、当時の改革派教会助祭の伝統的な服装だったと思われる。マスケット銃兵に何かを指示しているようだが、それは裏切り行為でもあり、顔をそらしながらも殺人謀議の首謀者を指し示している。
マリタ
ケンプの養女。
金髪と右耳、青いドレスが一際目立つ少女。彼女は光を浴びながら、腹違いの姉妹マリッケと連れ立って、人ごみに逆らうように走っていく。
マリタが暮らすケンプの養護施設は、レンブラントの屋敷から屋根続きだった。ケンプがマリタとマリッケを養子にしたことを、レンブラントは明らかに非難している。
本人の強い要望で、レンブラントはマリタの顔を隠すことにした。彼女は煮えたぎる熱湯を被り、顔に火傷を負っていたのである。レンブラントは熱湯の入った壷をマリッケに持たせた。
マリタは売春を余儀なくされた。後にその火傷跡を隠すために仮面をつけるようになった彼女は、1644年、メアリー・スチュアートに伴なわれ英国王室の財宝をアムステルダムへ質入にやってきた廷臣らに引き取られた。
マリッケ
ケンプの養女。
マリッケこそが、「夜警」の基本的精神であるとも言われている。市警団の紋章にも描かれている爪の鋭いニワトリの役割を彼女が担っている。彼女が腰から下げている膨らんだ袋は市警団に与えられた援助金を、抱えている容器は市警団の慈愛を象徴していると言われる。
レンブラントのテーマは、告発である。彼女が人々の流れに逆らいながら存在するのは、レンブラントが彼女の出生と市警団との不正な繋がりについて知っていることを知らしめるためだった。抑制されることもなく自ら公表するかのような性欲の象徴で作品を満たすことで、本質的には商品として扱われる彼女と彼らとの関係を表している。その事実に光を当てて強調し、モラルの崩壊についての疑惑を告発しようとした。