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ファウスト
Faust

2012年5月シネスイッチ銀座 ほかにて公開


■ストーリー
 19世紀初頭、ドイツの町。ファウスト博士は、助手のワーグナーとともに研究室で“魂”の存在を探していた。人体のどこにも“魂”を見つけることができないと嘆くファウストに、ワーグナーは「魂の正体を知っているのは神と悪魔だけです」と囁く。ファウストは神など存在しないと言い放つが、「悪魔は金のあるところにいて、広場の近くに住んでいる男が悪魔と噂されている」とワーグナーは言う。
  研究費も底をつき、まともな食事もできないファウストは、町をさまよい、いつしか悪魔と噂される高利貸の家へ。高利貸はマウリツィウス・ミュラーと名のり、部屋は町の人たちが持ち込んだ担保の品々で溢れている。ファウストが指輪を担保に金を借りたいと申し出ると、男は「価値があるのは金ではなく、時と芸術。金は貸さないが、別の形でなら力になろう」と提案する。しかし、借金を断られたと思ったファウストは耳を貸さず男の家をあとにする。

 ファウストが家にもどると、ワーグナーが小瓶をもってやって来た。毒を手に入れるように助手に頼んでいたのだ。そこへ、正装したマウリツィウスが訪ねてくる。彼は部屋にあった毒の小瓶を見つけ飲み干してしまうが、なぜか毒の効果は現れない。人間ばなれしたマウリツィウスに興味をおぼえたファウストは、「知らないことを教えてやろう」と唆されてマウリツィウスと共にふたたび町へ出かけて行く。

 


■キャスト
ハインリヒ・ファウスト:ヨハネス・ツァイラー
マウリツィウス・ミュラー(高利貸):アントン・アダシンスキー
マルガレーテ:イゾルダ・ディシャウク
ワーグナー:ゲオルク・フリードリヒ
 




       

 

 ファウストが連れて来られたのは、女たちが集う洗濯場。ファウストはひと際輝くマルガレーテを見つけ、その美しさに心奪われる。家までお送りしようと彼女に申し出るものの、すぐに断られてしまう。つぎに訪れた地下酒場では、兵士たちが終戦を祝って陽気に歌い飲み明かしていた。マウリツィウスは、兵士のひとりであるバレンティンにわざと酒をかけて騒ぎを起すと、魔法を使って壁からワインを噴出させる。その騒動にまぎれ、マウリツィウスにフォークを握らされたファウストは、バレンティンを誤って刺し殺してしまう。その男が実はマルガレーテの兄だと知らないファウストは、マウリツィウスに連れられてその場を逃げだす。

 罪の意識に苛まれるファウスト。死んだ男の家族に償いをしたいとマウリツィウスに頼むが、自分の殺した男が愛しいマルガレーテの兄であることを知り、愕然とする。兄の葬儀の日、ファウストはマルガレーテに近づくため、黒衣に身をつつんだ人々の群れにまぎれ参列する。ファウストは彼女を慰めながら束の間の逢瀬を楽しむが、二人きりのところを母親に見つかり、マルガレーテは母に「恥知らず」と激しく怒られる。
  気持ちが安らがないマルガレーテは、葬儀から帰ると教会へ向った。母への愛について悩み神に懺悔をしていると、そこにファウストが現れ「母を愛せなくとも、愛は強制ではない」と優しく語る。その言葉に励まされたマルガレーテは、彼に心を開き大切な兄の形見をみせるのだった…。


※   ※   ※

 

       
 




       


■プロダクション・ノートより

監督:アレクサンドル・ソクーロフ インタビュー

Q:なぜファウストを映画化したのか

私はゲーテの小説に以前から強く惹かれていましたし、なぜこれほど素晴らしく、パワフルな古典文学が故国ドイツでもっと映画化されないのか不思議に思っていました。またファウストはとても有名な題材ですが、実際に小説を読んでいる人は意外に少ないと思います。今回私はゲーテの原作、とくにそのテキストに最大限の敬意を払いながら、これを自分なりに解釈して映画化したいと思ったのです。
  前三作がヒットラー『モレク神』、レーニン『牡牛座 レーニンの肖像』、昭和天皇『太陽』という実在の人物だったことを考えると、たしかにファウストは唐突かもしれません。でも彼らに共通しているのは権力を持った、あるいは特別な地位にいる者のある種の不幸です。そして不幸な権力者というのは危険な存在でもあります。歴史は人々の手によって作られる。そして過去に起こったことは未来にも起こりえるでしょう。なぜなら私たちの社会で、たとえそれが社会主義であれ民主主義であれ、権力が組織される構造は変わらないからです。

Q:キャスティングとスタッフ

 まずドイツでオーディションを始め、キャラクターに近い年齢の役者たち千人以上に会いました。さらにヨーロッパ中から探し、結果的にドイツ、オーストリア、スカンジナビア、アイスランド、チェコ、ロシアの俳優たちが集まりました。特にファウスト役のヨハネス・ツァイラーをはじめとするドイツの俳優は素晴らしかったです。彼らにはロシアの演技の伝統にも通じるような質実な気風がありました。

 私はドイツ語を話せませんが、演技が良いか悪いかは感覚的に判断できます。それは『太陽』で、日本の俳優の方々と仕事をしたときにも感じたことです。たとえ言葉はわからなくても、俳優の資質や演技を感じ取ることはできるのです。ですから海外の俳優たちと仕事をすることはまったく難しいことではありませんでした。

 スタッフについても各国からとても才能のある人々を集めることができました。私たちの望みは、技術的に『ロード・オブ・ザ・リング』やその他のハリウッド大作に負けないような水準のものを作ることでした。今回初めて一緒に仕事をした撮影監督のブリュノ・デルボネル(『アメリ』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』)は世界的にも最高の技術を持った素晴らしいカメラマンだと思います。こうしたスタッフの粘り強さ、エネルギーがこの作品を技術的にとても高水準の、プロフェッショナルなものに仕立ててくれたと思います。


 

 









■監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ Alexander Sokurov
1951年6、シベリアのイルクーツク生まれ。学生時代はゴーリキ市のTV局で勤務し、19歳の時に初めてTV番組を制作。1975年に全ロシア国立映画大学へ進み、卒業制作として撮った長篇処女作『孤独な声』(78年)がアンドレイ・タルコフスキー監督に高い評価を受けるが、大学や政府当局から受け入れられず公開禁止処分となる。卒業後に手がけた多くの作品も、ソビエト連邦崩壊後まで一般公開されることがなかった。1987年以降は、ソビエト時代に公開されなかった作品も公開されるようになり、新作をコンスタントに発表。『ファウスト』で第68回ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞。

フィルモグラフィ

■劇映画
1978-87年 『孤独な声』
1980年 「The Degraded」
1983-87年 『痛ましき無関心』
1986年 「Empire」
1988年 『日陽はしづかに発酵し…』
1989年 『ボヴァリー夫人』
1990年 『セカンド・サークル』
1992年 『ストーン クリミアの亡霊』
1993年 『静かなる一頁』
1996年 『マザー、サン』
1999年 『モレク神』
2001年 『牡牛座 レーニンの肖像』
2002年 『エルミタージュ幻想』
2003年 『ファザー、サン』
2005年 『太陽』
2007年 『チェチェンへ アレクサンドラの旅』
2011年 『ファウスト』

■ドキュメンタリー
1978-88年 『マリア』 
1979-89年 『ヒトラーのためのソナタ』 
1981年 『ヴィオラ・ソナタ・ショスタコヴィッチ』 
1982-87年 「And Nothing More 」
1984-87年 「Evening Sacrifice」
1985-87年 「Patience Labour 」
1986年 『エレジー』 
1986-88年 『モスクワ・エレジー』 
1989年 『ソビエト・エレジー』 
1990年 『ペテルブルク・エレジー』 
1990年 「To The Events In Transcaucasia.Newsreel NO.5,Special Issue」
1990年 「A Simple Elegy」
1990年 「A Retrospection of Leningrad(1957-1990)」
1991年 「An Example of Intonation」
1992年 『ロシアン・エレジー』 
1995年 「Soldier's Dream」
1995年 『こころ精神の声』 
1995年 『オリエンタル・エレジー』 
1996年 「Hubert Robert.A Fortunate Life」
1997年 「A Humble Life」
1997年 「The St.Petersburg Diary.Inauguration of a Monument to Dostoevsky」
1997年 「The St.Petersburg Diary Kosintsev's Flat」
1997年 『オリエンタル・ノスタルジー』 
1998年 「Confession」
1998年 「The Dialogues with Solzhenitsyn」
1999年 『ドルチェ 優しく』 
2001年 「Elegy of a Voyage」
2005年 「The St.Petersburg Diary Mozart.Requiem」
2006年 『ロストロポーヴィチ 人生の祭典』 
2009年 「Reading"Book of Blockade"」
2009年 「Intonation」




■スタッフ
監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ
台本:ユーリー・アラボフ
共同脚本:マリーナ・コレノワ
撮影:ブリュノ・デルボネル
美術:エレーナ・ジューコワ
衣装:リディヤ・クリュー
メイク:タマラ・フリド
編集:イェルク・ハウシルト
製作・音楽:アンドレイ・シグレ

第68回 ヴェネチア国際映画祭 グランプリ(金獅子賞)ほか2部門受賞
第16回 サテライト賞 外国映画賞・撮影賞・美術賞・衣裳デザイン賞ノミネート
第36回 トロント国際映画祭 正式出品
第55回 ロンドン映画祭 美術監督賞ノミネート
第36回 ヒホン国際映画祭 美術監督賞受賞 

     

 

 

   


■オフィシャルサイト
http://www.cetera.co.jp/faust/


(C)2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St. Petersburg,Filmforderung, Russland Alle Rechte sind geschutzt

原題:Faust
2011年/ロシア/ドイツ語/140分/35o/ヴィスタ
日本語字幕:吉川美奈子
配給:セテラ・インターナショナル