もうひとりのシェイクスピア
ANONYMOUS

2012年12月22日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国にて公開


■ストーリー
　16世紀末。エリザベス一世統治下のロンドン。街では演劇が盛んになり、市民も貴族も芝居に熱狂していた。しかし、この風潮を快く思わない者もいた。エリザベス一世の宰相として権力をふるうウィリアム・セシル卿とその息子ロバートである。セシルは「芝居は悪魔の産物」と決めつけ、芝居に扇動された民衆が政治に影響を与える事を恐れていた。そんなある日、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアがサウサンプトン伯に連れられ、評判の芝居を見にやってきた。作者はベン・ジョンソン。鮮やかな芝居に感心するエドワードだったが、芝居の途中でセシルの兵が現れて上演を中止させ、作者も役者も観客さえも取り押さえようと劇場は大混乱となる。すんでのところで逃げ出した2人。だがエドワードの目には観客の熱狂が残っていた。これこそセシル父子が恐れる“力”なのだ。

　 セシルは、老いたエリザベスの後継にスコットランド王ジェームスを据えようとしていた。エドワードにとってセシルは義父だが、彼は義父とは異なり、チューダー朝の王たるべき者が後継であるべきと考えていた。エドワードが庇護するサウサンプトン伯とともに“エリザベスの隠し子”と噂されるエセックス伯も強力なチューダー朝派で、セシルは彼らをエリザベスから遠ざけようしていた。

　エドワードはサウサンプトン伯に、かつてエリザベスが愛した“芝居”によって、女王の心に近づく事をすすめる。サウサンプトン伯が女王に贈った芝居、匿名の作者によるその芝居は女王に若き日の思い出が蘇らせる。
　
　 ときは１６世紀半ば、若きエリザベスは、ある日、オックスフォード家に招かれ、ある芝居を見る。聞けばその芝居は「パック」という妖精の役を演じた、まだ幼さを残す少年が書いたのだという。それがオックスフォード家のエドワードだった。それから間もなく父を亡くしたエドワードは、ある密かな理由からセシル卿に引き取られて英才教育を受け、イタリアをはじめヨーロッパ全土を旅し、文武に秀でた美しい青年へと成長した。
　 やがて、エリザベスはエドワードを男性として愛するようになった。しかし、女王とエドワードの恋愛に危険を感じたセシルは、彼を女王から遠ざける策略を講じる。エドワードは宮廷を追放。エドワードは、セシルの娘と結婚を強いられ、以来彼は望みを失い、屋敷の書斎に篭ってばかりいる生活を送るようになった。

　牢に捕われていたベン・ジョンソンをエドワードは助けた。エドワードは彼を自分の屋敷の書斎に招くと、こう申し出る。「自分が書いた戯曲を、君の名で上演して欲しい」と。エドワードが渡した戯曲は、「ヘンリー５世」。半信半疑で役者たちに戯曲を渡したベンだったが、ローズ座での上演に自分の目を疑った。聖クリスピンの祭日の演説の場。「今日ともに血を流す者は我が兄弟となる。
　 祖国イングランドで寝床にいる貴族たちは男として必ずや引け目を感じるだろう!」。固唾を呑んで役者の演技を見守っていた観客から万雷の拍手が巻き起こる。興奮した観客は作者の登場を要求した。その時、ジョンソンの機を先んじて、ある男が舞台にすすみでて自身が作者であると名乗り出た。芝居に出ていた役者、ウィリアム・シェイクスピアである。シェイクスピアが作者を名乗ったのは予想外だったが、もう動き始めた車輪は止まらなかった。
　 ベンは定期的にエドワードの屋敷に行き、戯曲を受け取った。「ジュリアス・シーザー」、「マクベス」、「十二夜」、「ロミオとジュリエット」…。芝居はどれも大好評だった。シェイクスピアは次第に時の人となり、そしてエドワードは妻に非難されるも再び“書く事”に溺れていった。「登場人物たちの“声”が聞こえるのだ。書かなければ私は正気を失う」と・・・

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■プロダクション・ノートより

ストラトフォード派と反ストラトフォード派
シェイクスピアが本当の著者だということに合理的な疑いを持つ「反ストラトフォード派」と呼ばれる人の中には、文学界の巨匠や教師や作家や世界的な俳優、監督、学者たちもいる。
グループ説を信じる者もいる一方で、正体はオックスフォード伯のエドワード・ド・ヴィアやフランシス・ベーコン、クリストファー・マーロウなど単独説を信じている人もいる。
「反ストラトフォード派」にとって、オックスフォード伯が最有力候補だろう。彼が貴族であり、作家でもあることが、いわゆるシェイクスピア像と顕著な一致を見せているからだ。
オックスフォード伯説を裏付ける多くの重要な証拠もあり、これは「ストラトフォード派」には簡単に崩せないものである。その中には、オックスフォード伯が1年4ヶ月の間、ヨーロッパ大陸を旅しており、さらにはシェイクスピアが舞台にしたなじみのあるイタリアの街を訪れているのだ。
そのほかにも「ハムレット」は、オックスフォード伯の伝記かとも思えるほど、彼の人生に酷似している。彼の義父のウイリアム・セシルがポローニアス、娘のアン・セシルがオフィーリア。ガートルードのモデルとされる王妃は、オックスフォードが12歳の時からの母親代わりで、後に彼の恋人となったという具合である。
オックスフォード伯が持っていた注釈つきのジュネーブ聖書に記されていた一説をシェイクスピアが引用していたり、また、オックスフォード伯のあだ名が「spear shaker　（槍を振るう人）」というのは単なる偶然だろうか？

これに反して「ストラトフォード派」は、間違いなくストラトフォード出身のウィリアム・シェイクスピアが、37作の戯曲と154作の十四行詩『ソネット』を書いたと信じている。彼らには作者疑惑は存在せず、シェイクスピア作とされるすべての作品は、富と名声を求めてロンドンに向かった有名な劇作家自身が書いたものなのである。
彼らの主張は、主に4つの理由に裏打ちされている。「ウィリアム・シェイクスピア」という名前が、彼の生前に出版された多くの詩や戯曲の表紙に書かれており、また「ファースト・フォリオ」（シェイクスピアの死後7年後に発刊）の序文にベン・ジョンソンが、作者を「エイボンの白鳥（Sweet Swan of Avon）」と紹介している。さらに俳優仲間のヘミングスとコンテル（彼の遺言に記されている）がシェイクスピアを「フォリオ」の作者と指摘しており、ストラトフォードにあるシェイクスピアの記念碑の像と銘碑にも彼が作家だったと記しているというのだ。

どんな時代もそうだが、記録とは曖昧なものである。どんな学説にも矛盾や欠落があるのだが、シェイクスピアについては、彼の時代の他の俳優や劇作家と比べて、ほとんど情報がないのである。

―プレス資料より