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あの日のように抱きしめて
Phoenix

2015年8月15日(土)より、Bunkamura ル・シネマ他にて全国順次ロードショー


■ストーリー

 1945年6月。ドイツ降伏の翌月、レネは顔に大怪我を負った親友ネリーを連れてドイツに戻る。以前はロンドンの聖歌隊に所属していた声楽家でユダヤ人のネリーは、前年の10月に検挙されて強制収容所送りになり、銃で顔をめちゃくちゃにされたのだった。
 レネはネリーと暮らす家を見つけ、家政婦も雇う。顔の手術を受ける際、まったく別の顔にすることを薦める医師をさえぎり、ネリーは元の顔に戻すことに固執する。
 ユダヤ機関で働く弁護士のレネは、2人でパレスチナに移住する計画を立てている。「パレスチナにユダヤ人国家を作るのよ。奪われたものは取り戻す」と語るレネに、ネリーは反対も賛同もしない。

 


■キャスト
ニーナ・ホス
ロナルト・ツェアフェルト
ニーナ・クンツェンドルフほか
 







       

 

 やっと顔の傷が回復してきたネリーの唯一の願いは、夫ジョニーを見つけだし過去を取り戻すことだった。だが、レネは再会に反対する。その2か月前、ユダヤ機関でレネはジョニーを見かけていた。彼は、ネリーの検挙直前に提出した離婚届けを盗み出そうとしたのだった。レネは「ジョニーは裏切り者よ」と言うが、ネリーはその言葉を聞き流す。

 夜間にひとりで外出したネリーは、アメリカ兵相手のクラブ「フェニックス」で、ピアニストだったジョニーが掃除夫として働いているのを発見。翌日ふたたび「フェニックス」を訪れたネリーが、私娼と勘違いされて店を追い出されたところで、ジョニーが声をかける。「金儲けをしよう。似ているんだ、僕の妻に。妻は収容所で死に、一族も全滅した。妻を演じてくれ。そして妻の財産を山分けしよう。2万ドル渡せる」。そう語り、自分のアパートにネリーを連れて行く。

 筆跡を真似させ、かつてパリで買った靴を履かせ、赤いドレスを着せる。どんなに彼女が妻に似ていようとも、ジョニーは「妻は収容所で死んだ」という思い込みから離れようとしない。「赤い服とパリの靴では収容所帰りに見えない」「収容所のことを聞かれたら何を話せばいい?」と言うネリーに、ジョニーは「収容所からの生還者には誰も関わりを持ちたがらない。収容所の話なんて聞かれるはずがない」と答える。彼は、彼女が実際に収容所に行ったとは思いもしていないのだった。

 ある夜、ジョニーの家から抜け出したネリーは、レネの寝室の暗がりで告げる。「彼は私を見てもわからなかった。辛かったわ。私は一度死んだの。その私を彼はネリーに戻してくれた。パレスチナには移住しないわ。彼と一緒にいる。彼といると、昔の私に戻れるの・・・


※   ※   ※

 

       
 








       

■プロダクション・ノートより

クリスティアン・ペッツォルト監督:
Filmkritik誌が、アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』の特集をした際に、ハルン・ファロッキが、「入れ替わった女たち(Switched women)」という記事を書いていた。そのエッセーの中で、彼はユベール・モンティエの『帰らざる肉体(Le retour des cendres)』という小説を引き合いに出していた。この映画の原作となった本のことだ。
その後、僕はハルン・ファロッキに会って、時間をかけてこの本について話し合った。この手のストーリー――いわば『めまい』と強制収容所の生還ストーリーをブレンドしたようなもの――は、フランスでしか語ることができないのか、そう僕たちは自問した。

そしてドイツの戦後映画について考察した――なぜドイツでは、コメディーやジャンル・フィルムを作られないのか。僕たちは国家社会主義(ナチズム)によって作り出された深淵へと繰り返し繰り返し放り込まれてしまうんだ。

数年後、僕は『東ベルリンから来た女』の制作を始めた。ニーナ・ホスとロナルト・ツェアフェルトが演じる恋人たちを見ている内に、彼らを通してストーリーを語ることができるのでは、と考え始めた。それでもう一度試してみることにしたんだ。このストーリーを何とかしてドイツで語ることは可能なのか――もしできるとしたら、どうやって?と。


ニーナ・ホス:
キャラクターについて詳細なリサーチを行っている内に、あの時代の“その後”を当事者が語った記録がいかに稀少であるかに気がついたの。ネリーは強制収容所から出てくる。彼女は生き残って、救われたわ。まだそのトラウマの渦中にあるとき、それはどんな気持ちがするものなのか? それはいったいどんな状況なのか? 自身の体験について口を開くことすらできないのでは?
私にとっては、それが決定的なポイントだった。私の演じるキャラクターは、いかなる状況にあって、どれほど狂気に近い場所にいるのか? 収容所では、人々は“非人間化”されたわ。彼らは、人々を人間たらしめるあらゆるものを破壊しようとしたの。その体験の後に、人々は過去に自らを人間として定義づけていたものと、いかにして再び繋がることができるのか?

なぜネリーはジョニーという固定観念にしがみつくのか、その理由が私にはよく理解できるようになったわ。もし彼が彼女を見分けることができたら、彼女は再び生を取り戻すの。私は「なぜ彼は彼女を見分けることができないのか?」とは問わなかった。結局のところ、彼女も自分自身を見分けることができないのだから。芯まで徹底的に破壊されてしまうと、人は自らを認識できなくなる。私はその事実を理解する必要があったわ。それが最も大きなチャレンジだった。これは、バラバラになってしまった自分を繋ぎ合わせようとする1人の人間の話なのだと理解することね。彼女は遠くから帰ってきた。

そして手の届くあらゆるものを掴んで理解しようとする――自分はいったい何者なのか、これから何者になることができるのか。彼女はレネに言うわ。「ジョニーに会って私はネリーに戻ることができたの。時々自分に激しい嫉妬を覚えるわ――過去の自分がいかに幸福であったかにね」彼女は自らについて三人称で語る。まるで誰か他の人間の話をするように。それでも共感することはできる――彼女はまさにその人物だったのだから。それはどこに行ってしまったの?
(プレス資料より抜粋)


 

 









■監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
1960年、ヒルデン生まれ。ベルリン自由大学でドイツ文学と演劇を学ぶ。ドイツ映画テレビアカデミー(DFFB)で映画製作を学ぶと同時に、ハルン・ファロッキ、ハルトムート・ビトムスキーの助監督を務めた。前作『東ベルリンから来た女』は、2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞、監督賞を受賞。

フィルモグラフィ
2001 THE STATE I AM IN (ドイツ映画賞最優秀賞ほか11賞)
2002 SOMETHING TO REMIND ME (アドルフ・グリンメ賞ほか6賞)
2003 WOLFSBURG(ベルリン国際映画祭批評家連盟賞ほか2賞)
2005 GHOSTS(ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品/ドイツ映画批評家賞)
2007 YELLA(ベルリン国際映画祭銀熊賞ほか5賞)
2008 JERICHOW(ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品/ドイツ映画批評家賞)
2012 東ベルリンから来た女(ベルリン国際映画祭銀熊賞ほか10賞)
2014 あの日のように抱きしめて(サンセバスチャン映画祭批評家連盟賞ほか3賞)

■スタッフ
監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
共同脚本:ハルン・ファロッキ
原作:ユベール・モンティエ著「帰らざる肉体」(早川書房/品切重版未定)
撮影:ハンス・フロム
美術:K・D・グルーバー
衣装:アネット・グター
編集:ベッティナ・ブーラー
音楽:シュテファン・ヴィル
製作総指揮:ヤチェック・ガチェコフスキ、ピオットル・シュトエレキ
プロデューサー:フロリアン・ケルナール・フォン・グストフ、ミハイル・ヴィーバー

     

 

 

   


■オフィシャルサイト
http://www.anohi-movie.com/


(C)SCHRAMM FILM / BR / WDR / ARTE 2014

原題:Phoenix
2014年/ドイツ映画/シネマスコープ/デジタル5.1ch/98分
配給:アルバトロス・フィルム