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クロッシング・ザ・ブリッジ 

―サウンド・オブ・イスタンブール―

CROSSING THE BRIDGE The Sound of Istanbul

3月24日、シアターN渋谷にてロードショー

■ストーリー
 金属片やチェインソーなども楽器として使用する、ベルリン・アンダーグラウンドのアレキサンダー・ハッケ。映画「愛より強く」(06)の音楽制作をしている時に、イスタンブールの音楽シーンの魅力に強く惹かれた。ハッケはその魅力の秘密を求め、現地の音楽家たちとセッションを重ねていくために、10数本のマイクとレコーディング用ハードディスクを持ってイスタンブールへの旅に出る。
最初にハッケはトルコの民謡ハルクに基づいたネオ・サイケデリックなバンド、ババズーラと出逢う。たまたまババズーラのベーシストが脱退したばかりだったため、ハッケは喜んでベースを引き受けた。そして、次々にミュージシャンとの出会いがつづられていく。

 ハッケは、トルコの民謡やサズをDJカルチャーと融合させたオリエント・エクスプレッションズ、トルコ語パンク・ロックのデュマン、ソニック・ユースに影響を受けたオルタナティヴ・ロックのレプリカスらを録音。
さらに若い彼らに多大なる影響を与えた、現代トルコ・ロックの先駆者とも言われるエルキン・コライにあう。コライは60年代から反体制主義を押し通し、いまだに現代の若者からも支持されている。


 




■キャスト
アレキサンダー・ハッケ(アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)
ババズーラ、オリエント・エクスプレッションズ、
デュマン、レプリカス、エルキン・コライ、ジェザ、
イスタンブール・スタイル・ブレイカーズメルジャン・デデ、
セリム・セスレル、ブレンナ・マクリモン、シヤシヤベンド、
アイヌール、オルハン・ゲンジェバイ、ミュゼィイェン・セナール、
セゼン・アクス
 






 ボスポラス海峡を東のアジア側に渡ると、ラッパーのジェザとその家族に出会う。歌詞の内容は麻薬や暴力を煽らずに日常生活に則したシリアスで奥深いもの。
ストリートではブレイクダンサー達もダンスを鍛錬することでドラックなどの撲滅を訴えている。
スーフィー(イスラム神秘主義)音楽の葦笛「ネイ」と電子楽器を融合させたメルジャン・デデも、音楽や踊りを通してイスラムの寛容さを訴えている。
忘れ去られていた20世紀中頃のジプシー音楽を丁寧に発掘し、再び命を吹き込んだカナダ人女性歌手のブレンナ・マクリモン。彼女とともに活動するジプシー音楽の第一人者セリム・セスレル。セリムの故郷トラキアを訪ねたハッケはジプシー音楽の思わず踊りださずにはいられない魅力を肌で感じ取った。
そして、クルド人女性歌手アイヌールは政府の圧力にも負けずクルド人であることを主張し、切なく悲しいクルド民謡を歌う・・・。

※ ※ ※ 

■Duman(デュマン)

 なつかしいけど新鮮な1970年代のロックシーンのようなサウンド。伝統的なトルコ・ロックの中心的存在でもある。両親に影響されて10代でバンドを結成。21歳になった時、シンガーとして自分自身を試すために当時のグランジ・ロックの中心地であるシアトルに赴き、数年間を過ごした。
シアトルではトルコ語で歌詞を書き始めた。彼の代表曲の一つは、故郷イスタンブールへの賛歌である。純粋なパンク、イスタンブールの暗部への歌である。

■Replikas(レプリカス)

 より洗練されたロック。バンドのメンバーは上位中流階級出身で、ヨーロッパで生活している人達となんら変わらない生活をして育った。トルコの文化的歴史は無視されていたが、20歳になって自分たちのルーツを意識し始めた。
オリエンタルな要素はない。実験的なバンドとして、レプリカスはアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンを崇拝しており、ハッケが町にいると聞き、すぐにコンタクトをとろうとした。

■Mercan Dede(メルジャン・デデ)

 クラブサウンドと伝統的なス―フィ音楽とを融和させたワールドミュージック。
幼少の頃、乗り合いタクシー(ドルムシュ)の中で流れていた葦笛ネイの音色を耳にし、すぐさまその虜となった。ネイはスーフィーで重要な役割を持つ楽器。スーフィーの、透明度と寛容性が平等に美徳とされ、全ての疑問と答えは、それぞれの人の心の中にあるという姿勢は、メルジャン・デデの音楽の基礎となった。彼の音楽はトルコ的なスーフィーの哲学によって影響を受け、エレクトロニックとアンダーグラウンドの音がミックスされている。
スーフィーのもう一つの要素は、デルヴィッシュ(修道僧)のダンス。ダンサー達は自身の心の核に導かれる空の状態、一種のトランス状態になるまで腕を高く上げて旋回する。メルジャン・デデのステージではスーフィーの女性旋回舞踊僧がステージを舞うパフォーマンスが行われる。価値ある文化慣習を守り続けたいという彼の表現である。

■Aynur(アイヌール)

 近年までトルコではクルド人やその他少数民族が彼らの言葉や文化を広めることは禁じられていた。トルコ政府は文化的な浸入と分離を恐れ、特にクルド人は自分達のアイデンティティを隠さなければならなかった。クルド文化の自由化へと導いたのはトルコ内の信念ではなく、トルコのEU連合に向けてEU諸国から要求された政治的強制の結果であった。
アイヌールは自分の民族に自信を持って伝統を伝えるために、あえて伝統的なクルド音楽を歌う。彼女の歌は虐げられた人々の壮大な物語そして哀歌であり、人生の痛みの表現で、一種の東洋のゴスペルと言える。その音楽はデングベジェン(Dengbejen)と呼ばれていて、アラビアやメソポタミア、さらにユダヤの影響を受けている音楽である。
アイヌールのようなアーティストはトルコに暮らすクルド人の新たな象徴である。

■Alexander Hacke(アレキサンダー・ハッケ)

 ドイツのインダストリアル・ミュージックやノイズ・ミュージックの代表的前衛バンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン(Einsturzende Neubauten)のギターリスト/ベーシスト。「崩壊する新建築」という名のグループは、1980年、旧西ドイツのベルリンの壁に隣接した廃墟街・クロイツベルグ地区で、スクワッティング(空きビルの不法占拠)をして生活する若者達によって結成された。リーダーはブリクサ・バーゲルト(Blixa Bargeld)。一般的な楽器の代わりにハンドドリルやドラム缶など様々な電動工作機械・廃材を駆使するパフォーマンスで注目を集め、85年には来日も果たす。現在はレコード会社を経由せず、インターネット上のサポーターシステムにより精力的に活動している。
http://www.neubauten.org/
25年間のバンド活動を経て、2005年にソロアルバム『Sanctuary』をリリース。2004年ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したファティ・アキン監督作「愛より強く」の音楽製作に携わり、本作では、主役を演じることとなった。

―プレス資料よりー

 

 


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 イスタンブールの音楽がこれほどまでに豊かであったことに驚かされます。
 60年代後半を思わせる思わせるメロディアスなロック。 どこかに民俗音楽的な面影を残すインスロメンタル。 かつて、レッド・ツェッペリンのジミーペイジがワールドミュージックを作り込もうとアフリカ、アジアの音楽を研究していたことを思い出します。 その秘密はここら辺にもあったのかもしれないと思いながら。

 サウンドも美しかったけど、メッセージ性の強さも魅力です。イスタンブールの音楽とワールドミュージックの旅に出たい時はお勧めの作品です。(JS)







■監督・脚本:ファティ・アキン
 1973年ハンブルグ生まれ。ハンブルグ造形芸術大学で学んだ後、1995年に監督デビュー作の短篇映画『Sensin… You’re the one !』を発表。ハンブルグの国際短篇映画祭で観客賞を受賞。アキンの初めての長篇映画となる暗い社会的環境を描いたドラマ『Short Sharp Shock』(98)はロカルノ映画祭の銅豹賞、アドルフ・グリム賞、バヴァリア映画賞など9つの賞を獲得。ロマンチックなロードムービー『太陽に恋して』(00)、ドキュメンタリー『Wir haben vergesssen zuruckzukehren(私たちは戻るのを忘れた)』(00)と『Solino』(02)。『愛より強く』では、第54回ベルリン国際映画祭・金熊賞を受賞。
2005年にはカンヌ国際映画祭の審査委員を務める。
現在は、新作である"死"をテーマにした『On The other side』に取り掛かっており、"トリロジー"の第2部になる予定。(第1部は"愛"をテーマにした『愛より強く』、第3部は"悪魔"をテーマにした作品で現在執筆中。)

■スタッフ
製作:ファティ・アキン、クラウス・メック、アンドレアス・ティール、サンドラ・ハーザー、クリスティアン・クックス
ライン・プロデューサー:ティナ・メルスマン
プロダクション・マネージャー:ムラト・アラゴス
共同プロデューサー:ジャネット・ヴュルル
撮影監督:エルベ・デユ
録音:ヨハネス・グレール
音楽・整音:アレキサンダー・ハッケ
音楽コンサルタント:クラウス・メック

     




   


■オフィシャルサイト
http://www.alcine-terran.com/crossingthebridge


トルコ・ドイツ/2005年/92分/アメリカン・ヴィスタ/ドルビーSRD/カラー/英語・ドイツ語・トルコ語/
原題:CROSSING THE BRIDGE The Sound of Istanbul
監修:サラーム海上
配給:アルシネテラン


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